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相馬はわりかし律義。いいねー律義なコ。俺、好きだよ。
待ち合わせに指定したカフェテリアでコーヒー(何も入れない)をすすってる。指定時間10分前。
「お疲れさま」
ウェアと制服の入っているバッグを置くと、耳元にキス。ちろりと舐められ、相馬はしょっぱいと呟いた。
「一応、部活帰りですから」
「じゃ、お腹すいてるでしょ。どうする?」
「俺、トムヤムクンとう巻きとゴマ団子食べたいなー」
「素直にデパ地下が良いって言いなさいよ」
「だってさ、ホテルに大量のビニール袋持ち込むの恥ずかしくない?」
「三村は恥ずかしいかもね。私、手ぶらだもの」
指先をひらりとかざすと、そのまま立ち上がる。小さなハンドバッグごと突っ込まれ、手袋はポケットに入れられた。
何も持たないのは、不安じゃないのかな?そう尋ねると
「三村は重いもの」
と意味深な回答。
相馬とのデート(という言葉が一番近い)は、お茶してぶらっと買物して
(ねだるのは本当に些細なものばかりでいつも手持ちぶさたになる)メシ食ってホテルというどこの雑誌に出しても恥ずかしくない、
あまりにも王道すぎて人に言う気も失せるコースをたどる。
たいてい誘うのは俺で、相馬は手帳とケータイを睨んで適当に日時を割り振る。
時々、相馬のほうから聞いてくることもある。
相馬は山道を登ってて、荷物を下ろして息を吐きたい時もあって、そんな時に聞いてくるのかな、
と勝手に解釈してる。俺の役目は景色のキレイさだとか、水の美味しさを相馬に思い出させてやる役で。
景色は、キレイなはずだ。……そうなのかな?
水は美味しい。……ほんとに?
誤魔化しつつ、俺らは息を吐いてまた歩き出す。
相馬は一般的な解釈からいけば、実に整った顔をしている。スタイル申し分なし。肌もすべすべで柔らかくて、
ついつい一緒に眠りたくなる。重ねてセックスも上手い。言うこと無し。
隣を歩いてていかにもうらやましげな視線に数え切れないくらいかち合うし。
相馬はアクセサリーにするには、もったいない。抱きしめるには零れてしまう。そんなトコが、気に入ってるのかな。
俺的には。
「みーむーらー。また零した」
「いいじゃんどうせ後で舐めてくれるだろ?」
「冗談。私はしたいことしかしない。三村お金払うわけじゃないし」
膝に落ちたピーマンの切れっ端を相馬の肩先に乗せて、食べる。
寝そべった相馬はプラスチックのフォークで俺をつつき(んなとこつつくなよ)、ちょっといじってゆっくりと舐めた。
トレイをそっと退けて、中身の入っている缶を床に置く。
「相馬のしたいこと、しよ」
「へえ?泣くわよ、三村」
キスをする前に、枕元からコンドームが飛んでくる。……もー、分かってるって。
切り口が分からなくて電気にかざしていると、案の定ひったくられて、尖った爪がキレイに破く。
「見え見えの手は使わない」
「相馬がせっかちなんだろ」
舐める唇はピリ辛で、口紅はとっくに剥げている。
ガキみたいだよな。てんでガキ。セックスなんかしてるけど、いや、してるから?ガキ。
背骨にそって指を撫で下ろす。うすい肌。筋肉がぴくりと動く。剥いでみたらきっとキレイな桜色なんだろう。
「相馬って睡眠薬みたい」
「色々な解釈ができそうなコメントね」
「例えば?」
「ないと眠れない、ベッドサイドの引き出しに入れておきたくなる、だんだん効果が薄れる、習慣性」
「いつも、もう、止めようって思うのに手が伸びる」
「ドラッグみたいに?」
「ポテトチップみたいに」
安い、と相馬は鼻を鳴らし。俺が価値下げてるからさ、と言うとピアスが引っ張られた。
「なー。もうウリ止めない?お金欲しいなら俺、相馬買いきるって」
エビアンのボトルから一口すすり、口に含んだまま、いきなり咥えられる。
「つ、冷た……」
くちゅくちゅとゆすがれ、喉元が動いた。
「あんまり馬鹿なこと言うから。ちょっとだけサービス」
「わりかし本気なんだけど」
「三村の中から、他人の痕跡消してよ。そしたら前向きに検討させていただきます。可及的速やかに」
口元からちょっとだけ溢れた水を指先で拭う。サマになる。アホな奴はこれだけでぐっときちゃうんだろうけど。
相馬のカラダはどこもかしこも商品だ。気合の入り方、ハンパじゃない。安らぐとかそういうことじゃなくて。
相馬とセックスするのは、もうちょい切実なものだ。果たし合いみたいな。大事なモン、おたがい賭けないと。
「ヤだねー、光子ちゃん。それ皮肉?」
「私がどうして三村と寝てると思うわけ?」
「一種のセラピーみたいな。俺を道具にオナニー」
相馬は乱れた髪をかきあげ、何も言わない。ベッドの下からすっかり気の抜けたビールを出して、音を立ててすすった。
相馬はまるで睡眠薬だ。人工的で、カラダからやがて排出される。
もたらす眠りはあくまで一時の休止で、一瞬死んでいる、ような。擬似的に殺されて、殺している。
俺のナイフは相馬を抉り、相馬の傷口は俺を腐敗させる。
もしかしたら、俺の中の「他人の痕跡」とやらも腐敗させるんじゃないかと、これは希望的観測。
◆END◆
by Panorama Thank you! xxx
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