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笑う。笑う。笑う。
所々破れ裂けた制服の隙間からすらりと伸びた両の足。惜しげも無く外気に晒し、流麗に徘徊する。
跫音などという無粋な物音、発てよう筈も無いか細げなその肢体。白魚の如き繊手にはそっと無骨な鎌が握られている。
手首の細い骨、指、爪。そして鎌の柄から刃先。それらは皆、鮮赫色一色で染め上げられ、さながら異形の手の様な有様だ。
しゃらしゃらと銀色の点滅を繰り返す永久の星々、散りばめられた漆黒の夜空を背後に従え、第一の従者は紅の月。
ぼうと照らされ黒々と地に這う影の輪郭すら見事なまでに愛らしく、稚く、それでいて蠱惑的ですらある。
ましてやその実体となれば如何程のものか。
笑う。笑う。笑う。歩く。笑う。
彼女は夜天に哄笑する。怖れるものは何も無かった。ただ現実を受け入れ、そして受け入れた自分をも受け入れた。
生も死も単なる選択に過ぎない。強制された運命。そうこの遊戯を定義し強制に抗おうとする人は馬鹿だ。
生自体既に強制されたものなのだから、これ以上の縛縄は無い。目の前の現実だけを見据えていれば良い。
好き勝手に生きて好き勝手に死ぬ。これまでもそう生きてきた。そしてこれからもそう生きるだろう。それの何が悪い。
笑う。笑う。笑う。歩く。右。左。右。左。右。
泥にまみれ髪は蓬々と乱れてもなお彼女は壮絶に美しかった。瞳は煌めき強い光が宿る。両端が軽くつり上がった唇。
湛えた笑みは堪えきれずに漏れる歓喜と解き放たれた自由の証。常識など通用しない。自らがルール。自らが神。
腕を伸ばし助けを求めて足掻こうとも決して海は割れぬ。何故なら自分自身の世界の神は自分自身なのだから。
彼女は世界を構築する。可憐な美しさと強さと残忍さによって他の世界を破壊し取り込んでゆく。
躊躇うことなど有るものか。本能と理性の指し示すままに行動するまでのこと。
例えそのことに因ってどの様な結果が待ち受けていようとも。
―――――桐山和雄に撃たれ、彼女はあっけなく倒れた。そのことが彼女の世界の終焉を招いた。
神はもう何も生み出さない。神はもう何も破壊しない。神はもう二度と微笑まない。
たなびく黒い雲がふうわりと月を覆い隠した。彼女の世界の住人が喪に服したのだろう。辺りは闇に覆われた。
弔いの鐘が鳴る。聴く人は誰も居ない。
◆END◆
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